海王星のかなた“惑星X”探せ 太陽系第9惑星の有力候補

■神戸大が昨秋から本格探査

「惑星X」は、海王星のはるか外側を周回しているとされる惑星サイズの未知の天体だ。神戸大学の向井正名誉教授らが2008年、理論計算から「存在する可能性が高い」と発表した。実際に見つかれば、太陽系第9惑星の有力候補となる。天文学史に刻まれる大発見を目指して、神戸大の観測グループは昨年秋から、本格的に惑星Xの探査を始めた。

■広い視野

神戸大の伊藤洋一准教授らの観測グループは、惑星Xの探査拠点として東京大学天文学教育センター・木曽観測所(長野県木曽町)を選んだ。昨年の秋冬に通算で1カ月ほど観測を行った寺居剛さん(大学院博士課程)は「惑星Xを見つけるには、木曽観測所のシュミット望遠鏡が最適」だと説明する。

理論予測では、惑星Xの大きさは地球と同程度で、質量は地球の0・3〜0・7倍とされる。明るさは16〜21等と予測され、口径1メートル程度の望遠鏡で発見可能。ただし、大きな楕円(だえん)軌道は地球や木星などの軌道面(黄道面)から20〜40度も傾き、どこに位置しているかは特定できない。このため、探査には広い視野が必要とされる。

木曽観測所のシュミット望遠鏡は口径105センチで、一度に撮像できる範囲は50分×50分角。視野の広さを誇る国立天文台すばる望遠鏡の「満月1個分」(34分×27分角)を大きく上回る。寺居さんは「天体を詳しく調べる性能では劣るが、見つけるだけならすばる望遠鏡よりもシュミットの方が有利」と解説する。

また、惑星Xは地球に対する相対速度が遅いので、数時間の間隔で撮像しなければ「動き」をとらえられない。長期間にわたって一晩中観測できる体制も求められ、木曽観測所はこの条件も満たしている。

■理論予測

1846年に見つかった海王星は、理論予測が発見に結びついた成功例だ。向井名誉教授らの理論予測の方法は「天王星の軌道のふらつきから海王星の存在を予言した19世紀の手法に似ている」という。

天王星に相当するのは、「カイパーベルト」と呼ばれる海王星の外側の領域で見つかった多数の天体だ。向井名誉教授はブラジル人研究員のパトリック・ソフィア・リカフィカさん(現近畿大学助教)と共同で、100個を超すカイパーベルトの小天体の軌道を解析し、複雑な軌道分布を説明するために惑星Xの存在を仮定。膨大なシミュレーションに基づいて「精度の高い仮説」を築いた。

準惑星となった冥王星の発見(1930年)も、きっかけは理論予測だった。「海王星の外側にも惑星が存在する」と予言した米国の天文学者、ローウェルは、未知の惑星を「惑星X」と呼んだ。ところが、理論計算が間違いだったことが後に判明。“予言通り”に未知の天体(冥王星)が見つかったのは、奇跡的な偶然だった。

■ライバル

惑星Xの発見を目指しているのは、神戸大の観測グループだけではない。

米国、台湾などの国際グループは、ハワイに建造する4つの望遠鏡で、太陽系の天体を網羅的に探し出す「パンスターズ計画」を進めている。1号機はすでに完成しており「本格的に稼働すれば、木曽観測所のシュミット望遠鏡では太刀打ちできない」(寺居さん)という。

強力なライバルが軌道に乗る前に、発見するしかない。そのためには運も必要だ。「木曽観測所で探査できるのは、惑星Xの軌道の半分程度。現在の位置が反対側だったら、いくら探しても見つからない」

文字通り、運を天にまかせて、寺居さんらは歴史的な発見に挑む。伊藤准教授は「日本発の理論予測だから、できれば日本で発見したい」と話した。