緑のアジサイ 実は病んでいます… 病原細菌「ファイトプラズマ」に感染

■変形など被害

 青、紫、ピンク…と梅雨を彩るアジサイだが、時として花(萼(がく))が葉のように濃い緑色のものがある。観賞用として珍重されることもあるが、実は植物の形を変え、農作物などに被害を及ぼす病原細菌「ファイトプラズマ」による病気だ。細菌そのものは人体に害はないが、自宅の庭などに見つけた場合には感染が広がらないよう隔離や処分などの対応が必要という。

■さまざまな症状

 「海外では緑色のアジサイもあるが、日本で緑のものはファイトプラズマの症状と見てよい」と説明するのは、東大大学院農学生命科学研究科の難波成任(なんば・しげとう)教授(植物病理学)。

 ファイトプラズマは植物の細胞内に寄生する細菌の一種。一般的に夏場に多く見られる体長数ミリのセミの仲間「ヨコバイ」が、感染した植物の汁を吸った後、ほかの植物の汁を吸って感染を広げていく。植物自身の繁殖や人間による挿し木などでも拡大する。症状はさまざまで、イネなどを枯らすほか、花などが緑の葉のように変わる「葉化(ようか)病」、背丈が伸びず一部の枝から小枝が多数伸びる「天狗巣(てんぐす)症状」といった奇形を作り出す。

 アジサイの場合、葉化による緑の花が珍しがられるが、数年で枯れてしまう。品種登録されたこともあり、近年もインターネットなどで取引されてしまう例があるという。

 感染拡大のリスクについて、難波教授は「ファイトプラズマの中でもアジサイだけがかかる固有のものがあり、ほかの植物には感染しない。アジサイ固有のファイトプラズマはヨコバイによる感染はなく、感染したアジサイの挿し木などによって増えていく。仮にその通りなら、感染拡大の危険はさほどないとも言える」との見方だ。

 ただ、「ヨコバイによる感染がまったくないという証明は難しく、拡大の危険性は否定できない。もし観賞するなら病気であることを分かったうえで、温室などで隔離してほしい」(難波教授)。

 ■温暖化で深刻化も

 一方で、アジサイの品種育成や保存に取り組む「日本アジサイ協会」((電)03・3956・8423)は、事態を深刻に受け止めている。杉本誉晃(たかあき)理事・事務局長によると、ファイトプラズマの被害に悩むアジサイ名所が各地にあるという。「被害を明かしたがらない名所の関係者もいるが、風評被害などを恐れず、早い対応が望まれる」と説く。

 自宅の庭などで感染したアジサイを見つけた場合について、杉本事務局長は温室などで隔離して育てることも避けるべきだとし、「草木を捨てる際の自治体のルールに従い処分してほしい。感染したかどうかの判断に迷う場合は、協会に相談を」と話す。

 ファイトプラズマは既に世界の1千種ほどの植物に感染。熱帯や欧米をはじめ、海外で猛威をふるっている。地球温暖化で媒介する昆虫が活発化し、国内を含め、さらに深刻化しそうだという。

 ■ポインセチアにも

 クリスマスに欠かせない鉢物「ポインセチア」も、国内に流通する背が低く枝分かれの多いタイプは、すべてファイトプラズマによる天狗巣症状が出ているという。難波教授は「正常なポインセチアは丈が2メートルほどもあり、家庭では観賞しにくい」と話す。つまり、室内で観賞用として置かれているポインセチアは、すべてファイトプラズマに感染しているということになる。しかし、難波教授によると、ポインセチアのファイトプラズマも恐らくほかの植物に移らないという。

 植物の病気に関連して、難波教授は「斑(ふ)入りの植物も観賞の対象になっているが、実はトランスポゾン(遺伝子の一種)による異常。このように、何を観賞し何を病気と考えるかは、まさに人間の都合だ」とつけ加える。