メソアメリカ文明の高度なゴム製造技術

チャールズ・グッドイヤーが19世紀半ばに加硫ゴムを発明する3000年も前、メキシコと中央アメリカの広範囲にわたり繁栄した古代文明では、既にさまざまな用途のゴムが製造されていたとの最新研究が発表された。

メソアメリカ地域に栄えたアステカ、オルメカ、マヤ文明では、植物から採取する樹液に似た乳白色液体(ラテックス)からゴムができると知っていた。メソアメリカは、メキシコ中央部からホンジュラスニカラグア周辺に広がる地域を指す。

当時のゴムは、ゴムノキから採取した天然のラテックスとアサガオのつるの汁を混ぜて作る。アサガオには、固化したラテックスの耐久性を高める成分が含まれている。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、2つの材料の配合を変えて、さまざまな性質のゴムを作ってみた。弾性の高いゴムもその1つで、メソアメリカで球戯に使われていた可能性もある。マヤの古文書に描かれているように、球戯は“善と悪の闘い”という宗教的な意味を含んでいた。試合後には人間の首が生け贄として捧げられたと考えられる。

別の配合では、より丈夫なゴムができたという。アステカ文明のサンダルの材料に使われていた可能性がある。アステカを滅ぼしたスペイン人がその存在を書き残しているが、いまだに実物は発見されていない。

ラテックスとアサガオの汁の配合は、同量だと最大の弾性を発揮し、75対25で最も耐久性の高いゴムになった。

研究チームのメンバーで、MITの考古学・民族学資料研究センター(Center for Materials Research in Archaeology and Ethnology:CMRAE)の研究員でもあるマイケル・ターカニアン(Michael Tarkanian)氏は、「古代人がラテックスとアサガオでゴムを作っていても不思議ではない」と話す。アサガオはゴムノキの近くに生える場合が多く、どちらもメソアメリカ文明では神聖で、特にアサガオの幻覚作用は宗教的儀式で重用されていた。

可能な限り正確に当時のゴムを再現するために、ターカニアン氏と研究チームのドロシー・ホスラー(Dorothy Hosler)氏は、メキシコに赴いてラテックスとアサガオの汁を採取した。

最初に直面したのは、材料をどうやって持ち帰るかだった。ラテックスはアメリカの税関で特に規制されていないので、公式な書類無しで国内に持ち込めるが、「ボトルに小分けしたんだが、中身は悪臭を放つ得体の知れない白濁液だ。なかなか大変だったよ」とターカニアン氏は回想する。

ようやく実験を始めようと思った矢先、両氏はまたもやハードルに直面した。ラテックスは温かい環境で扱う必要があったのだ。「メキシコではスムーズに作業が進んだのに、空調の効いたMITの研究室ではそうはいかなかった。温度が下がりすぎると、分子が結合しないんだ」とターカニアン氏は説明する。

ちなみに現在、ほとんどの天然ゴムは「加硫」と呼ぶプロセスで加工されている。液状のラテックスに硫黄を加え、強度と弾性を高める仕組みだ。

ターカニアン氏によると、アステカなどの古代文明と高度なゴムの加工技術はまったく矛盾しないという。とかく粗野で暴力的な印象が多いアステカ人だが科学への探究心は優れており、冶金などの産業技術が発達していた。「彼らの科学や工学、開発技術の優秀さなら、ゴムの配合もいろいろ試してみたはずだ」と同氏は述べる。

生の材料を混ぜ合わせると約10分でゴムの塊となり、その5分後には硬化してしまう。製品加工には、ほんの数分しか残されていない。

ターカニアン氏とホスラー氏が研究室で作っていたのはシート状のゴムがほとんどだったが、試しに球状に加工してみたそうだ。「学期末に、そのゴムボールでメソアメリカの球戯を真似て試合をやってみた。負けたチーム? もちろん首を落とされたよ」とターカニアン氏はユーモアを交えてコメントしている。

今回の研究結果については、2010年7月号の「Latin American Antiquity」誌に掲載予定。


ナショナルジオグラフィック